京橋のバイオインフォマティシャンの日常

南国のビーチパラソルの下で、Rプログラムを打ってる日常を求めて、、Daily Life of Bioinformatician in Kyobashi of Osaka

生物学分野におけるMorphomicsの最新動向 : 歩み・貢献・意義と展望

背景

Morphomics は、細胞から組織・臓器スケールまでの網羅的な形態定量を“オミクス”の視座で扱う試みです。

2000年代のハイコンテント画像解析から始まり、2010年代のCell Painting標準化、臨床画像のAnalytic Morphomics、病理のPathomics/NGM、そして2020年代中盤の生成モデルによる形態応答予測へと展開してきました。

本稿では、代表研究の新規性・貢献/データ・手法/主要な知見・影響/限界・今後の課題を簡潔に整理します。


2004:自動顕微鏡による多次元プロファイリングの嚆矢(Perlman ら, PNAS)

  • 新規性・貢献:薬剤の作用を“表現型指紋”として多次元定量し、用量に不変なTISSで類似性を測る枠組みを示しました。

  • データ・手法:ヒト細胞×薬剤濃度系列、単一細胞の多量特徴、分布比較に基づくスコアリング。

  • 主要な知見・影響:未知薬の機序推定や既知薬のクラスタリングが可能になりました。

  • 限界・今後の課題:当時は特徴抽出や前処理の標準化が未整備でした。 ([PubMed][1])


2006–2008:CellProfiler/Analyst による民主化(Carpenter ら/Jones ら)

  • 新規性・貢献無償・オープンソースの解析基盤を提供し、サイズ・形状・テクスチャ等を高スループットに抽出可能にしました。

  • データ・手法:モジュール式パイプライン、対話的な探索・分類(Analyst)。

  • 主要な知見・影響:後続の Cell Painting を含む形態プロファイリングの事実上の標準となりました。

  • 限界・今後の課題:3D・ライブ画像やドメインシフト耐性は後年の課題として残りました。 ([BioMed Central][2])


2007:単一細胞の多変量プロファイリング(Loo ら, Nat Methods)

  • 新規性・貢献約300特徴に基づき、薬剤効果の大きさスコア変化ベクトルという表現で、作用の方向性まで定式化しました。

  • 意義:集団平均では見えない細胞内不均一性を扱えるようになりました。 ([PubMed][3])


2013:Multiplex Cytological Profiling(Cell Painting の原型;Gustafsdottir ら, PLOS ONE)

  • 新規性・貢献:複数の蛍光色素で細胞を“塗る”発想を具体化し、7大コンパートメントを一括計測しました。

  • データ・手法:U2OS などでの多チャネル蛍光+高次元特徴抽出、プロトコルとデータ公開。

  • 主要な知見・影響:作用機序の近い化合物が形態プロファイルでクラスタすることを実証しました。 ([PLOS][4])


2013:画像プロファイリング手法の比較・標準化(Ljosa ら)

  • 新規性・貢献特徴の集約法・距離・クラスタリングなどを体系比較し、再現可能な設計指針を提示しました。 ([PMC][5])

2014:性能多様性ライブラリという設計思想(Wawer ら, PNAS)

  • 新規性・貢献化学構造の多様性=生物学的多様性とは限らないと指摘し、形態+遺伝子発現に基づく“性能多様性”で化合物ライブラリを設計しました。

  • 意義少数アッセイ×高次元表現で探索空間を効率にカバーする実務的アプローチを示しました。 ([PNAS][6])


2016:Cell Painting プロトコル確立(Bray ら, Nat Protocols)

  • 新規性・貢献6色素/5チャネルで8構造を標準化し、\~1,500特徴/細胞の抽出手順・QC・解析作法を明文化しました。

  • 限界・今後の課題:細胞種差や染色条件差へのロバスト性強化は、近年の学習ベース表現やプロトコル更新で前進しました。 ([Nature][7])

承知しました。前回の記事に「2014–2015:morphome/morphomics 概念の明確化(Lucocq/Mayhew)」の節を追補します。です・ます調かつややフォーマルな語彙に整え、本文末にURL 付きリファレンスも添えます。配置は 2013 年(Multiplex Cytological Profiling)→ 本節 → 2016 年(Cell Painting プロトコル) を想定しています。


2014–2015:morphome/morphomics 概念の明確化(Lucocq/Mayhew)

  • 新規性・貢献: Lucocq らは、morphome を「3 次元生体システム内の生体物質の空間分布(= 形態的特徴の全体)」として定義し、morphomics をその体系的・定量的な 3D データ収集と位置づけました。ゲノムやプロテオームと同様に“オミクス”の一員として形態を正面から扱う枠組みを明示し、システム生物学との接続を提案したことが大きな貢献です。また、当時欠落していた「ナノスケール分解能での包括的 3D 量的ビュー」の必要性を強調しました。([Cell][1*])

  • データ・手法: Mayhew は、ステレオロジーを核としたサンプリングに基づく 3D 定量の方法論を総括し、巨視(解剖・医用画像)から微視(光学・電子顕微鏡)までのマルチスケール画像を“morphomics のデータ資源”として統合的に扱うパラダイムを提示しました。これにより、バイアスの小さい定量大規模データ化(big data)への道筋が示されました。([PMC][2]*)

  • 主要な知見・影響: 形態を “-ome/-omics” の語彙で厳密に定義したことにより、細胞・組織スケールの形態情報をオミクス同等の一次データ層として取り扱う共通言語が整備されました。これが後年の Pathomics/Analytic Morphomics/EM morphomics の潮流を理論面から後押しし、定量 3D 形態データの標準化・共有への要請が高まりました。([Cell][1])

  • 限界・今後の課題: 概念提唱当時は、高スループットな 3D 取得・自動セグメンテーション・FAIR な共有基盤が未成熟であり、コストとアノテーション負荷がボトルネックでした。


2012–2017:Analytic Morphomics(臨床 CT の“形態オミクス”)

  • 新規性・貢献:体幹部 CT から脂肪・筋量・骨密度などを自動定量し、術後合併症や予後の独立予測因子として活用しました。

  • 代表例:肝移植後の新規発症糖尿病(NODAT)リスク予測(Vaughn ら, 2015)やコア筋量とアウトカムの関連(Englesbe ら, 2012)。

  • 意義:細胞スケールの形態プロファイリングと臨床スケールの放射線画像解析が並走・接続し始めました。 ([PubMed][8])

2018 前後:ボリューム EM(vEM)とマルチビーム SEM による超スループット化

  • 新規性・貢献SBF-SEM/FIB-SEMマルチビーム SEMにより、広域×高分解能の 3D 形態取得が現実的スループットに到達しました。

  • 限界・今後の課題TB〜PB 級のデータ運用と自動セグメンテーションが新たなボトルネックとなりました。 ([PMC][9])


2023:Next-Generation Morphometry(NGM)/Pathomics(Hölscher ら, Nat Commun)

  • 新規性・貢献:病理 WSI に対する大規模セグメンテーション→幾何特徴の網羅抽出(FLASH)を確立し、腎疾患でアウトカム予測に寄与しました。

  • 意義:分子オミクスと並ぶ“形態オミクス=Pathomics”の実装例として、臨床導入の道筋を具体化しました。 ([Nature][10])

2023/2024:EM × 画像情報学で“morphomics”を冠する総説(Son ら, J Mol Cell Biol 2023)

  • 新規性・貢献: 次世代電子顕微鏡(vEM, マルチビーム SEM など)深層学習を統合し、細胞・組織の網羅的形態取得=“morphomics”新たなオミクスの柱として位置づけます。広域・ナノスケールの撮像と自動セグメンテーション/3D再構成の最新動向を包括的に整理し、大規模バイオイメージの定量化が加速している事実を強調。 ([Oxford Academic][13])

  • データ・手法: SBF-SEM/FIB-SEM/マルチビーム SEMによる vEM データを、DL セグメンテーション形態特徴抽出で高次元化し、細胞器官〜組織アーキテクチャのアトラス化を志向します。関連する技術レビュー(Eberle らのマルチビーム SEMや vEM 総説)も、本流の基盤として参照されます。 ([PMC][14])

  • 意義: EM 領域でも“量的・網羅的”というオミクスの作法が定着しつつあり、コネクトミクス病理超微形態の解析でスケール横断の統合(分子・構造・機能)が現実味を帯びています。 ([Oxford Academic][13])

  • 限界・今後の課題: アノテーション負荷/汎化性能/データ共有と標準化(FAIR)、および計算資源コストが主要課題です。ベンチマーク化と半教師あり/弱教師ありの普及が鍵になります。 ([Oxford Academic][13])

2024:JUMP-Cell Painting(CPJUMP1)——300万枚規模の基盤データセット

  • 新規性・貢献化学×遺伝子摂動を横断する対応付けを可能にする大規模リソースを公開しました。

  • 意義学習ベース表現対照学習の共通土台となり、化学–遺伝子の機序整合の検証が進みました。 ([Nature][11])

2025:生成モデルによる形態応答の予測(IMPA/MorphoDiff など)

  • 新規性・貢献IMPA(スタイル変換系)やMorphoDiff転写プロファイル条件付き拡散)が、未見の摂動に対しても形態変化を画像レベルで予測しました。

  • 意義:「実験して観察」から“実験前に形態を予見”する設計へ。スクリーニングの探索空間を大幅に圧縮します。

  • 補足:両者は biorxiv 版を経て Nature Communications 掲載版が公表されています。 ([Nature][12])


まとめ

  • 出発点は 2000年代の多次元形態プロファイリングであり(Perlman→CellProfiler→Loo)、2010年代にCell Paintingとして標準化されました。 ([PubMed][1])

  • 横展開として、臨床 CT のAnalytic Morphomicsや病理のPathomics/NGMが確立し、スケール横断の“形態オミクス”が見えてきました。 ([PubMed][8])

  • 現在地は、EM×深層学習によるmorphomics 総説(Son ら)の提起と、生成モデルによる形態応答の in silico 予見です。実験設計や化合物選抜の効率化に直結します。 ([Oxford Academic][13])


参考文献(URL)

  1. Perlman ZE, et al. PNAS (2004): Multidimensional drug profiling by automated microscopy. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15539606/ ([PubMed][1])

  2. Carpenter AE, et al. Genome Biology (2006): CellProfiler: image analysis software… https://genomebiology.biomedcentral.com/articles/10.1186/gb-2006-7-10-r100 ([BioMed Central][2])

  3. Jones TR, et al. BMC Bioinformatics (2008): CellProfiler Analyst: data exploration and analysis… https://bmcbioinformatics.biomedcentral.com/articles/10.1186/1471-2105-9-482 ([BioMed Central][15])

  4. Loo LH, et al. Nature Methods (2007): Image-based multivariate profiling of drug responses… https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17401369/ ([PubMed][3])

  5. Gustafsdottir SM, et al. PLOS ONE (2013): Multiplex Cytological Profiling Assay… https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0080999 ([PLOS][4])

  6. Ljosa V, et al. J Biomol Screening (2013): Comparison of methods for image-based profiling… https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3884769/ ([PMC][5])

  7. Wawer MJ, et al. PNAS (2014): Toward performance-diverse small-molecule libraries… https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1410933111 ([PNAS][6])

  8. Bray M-A, et al. Nature Protocols (2016): Cell Painting, a high-content image-based assay… https://www.nature.com/articles/nprot.2016.105 (PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27560178/) ([Nature][7])

  9. Englesbe MJ, et al. Annals of Surgery (2012): Analytic Morphomics, Core Muscle Size, and Surgical Outcomes. https://journals.lww.com/annalsofsurgery/Fulltext/2012/08000/Analytic_Morphomics,_Core_Muscle_Size,_and.11.aspx ([Lippincott][16])

  10. Vaughn VM, et al. Clinical Transplantation (2015): Analytic morphomics identifies predictors of NODAT after liver transplantation. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25740081/ (PDF: https://deepblue.lib.umich.edu/bitstream/handle/2027.42/111210/ctr12537.pdf ) ([PubMed][8])

  11. Eberle AL, et al. Frontiers in Neuroanatomy (2018): Multi-Beam SEM for high-throughput imaging in connectomics. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6297274/ ([PMC][14])

  12. Peddie CJ & Collinson LM. Nat Rev Methods Primers(2022 の総説相当): Volume electron microscopy. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7614724/ ([PMC][9])

  13. Hölscher DL, et al. Nature Communications (2023): Next-Generation Morphometry for pathomics-data mining… https://www.nature.com/articles/s41467-023-36173-0 (PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36709324/) ([Nature][10])

  14. Chandrasekaran SN, et al. Nature Methods (2024): Three million images and morphological profiles of cells(CPJUMP1). https://www.nature.com/articles/s41592-024-02241-6 ([Nature][11])

  15. Son R, et al. Journal of Molecular Cell Biology (2023; PubMed 2024): Morphomics via next-generation electron microscopy. OUP: https://academic.oup.com/jmcb/article/15/12/mjad081/7499729 / PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38148118/ ([Oxford Academic][13])

  16. Palma A, et al. Nature Communications (2025): IMPA—a generative style-transfer model for predicting morphological responses. https://www.nature.com/articles/s41467-024-55707-8 (PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39779675/) ([Nature][12])

  17. Wang X, et al. Nature Communications (2025): MorphDiff—transcriptome-guided diffusion for predicting morphology under perturbations. https://www.nature.com/articles/s41467-025-63478-z ([Nature][17])

  18. https://www.cell.com/trends/cell-biology/fulltext/S0962-8924%2814%2900166-4?utm_source=chatgpt.com "Systems biology in 3D space – enter the morphome" ([Cell][1*])

  19. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4386931/?utm_source=chatgpt.com "From gross anatomy to the nanomorphome" ([PMC][2]*)